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2010年4月 5日 (月)

詩 「サイレント」 詩人会議5月号掲載

「サイレント」

滑らかに磨かれた

自動ドアからは

結局のところ何も見えない

緩くなったタイトスカート7号は

もう取り替えることが出来ない

要らぬものが

この身体を離れたのか

蒸発した魂の分だけ

しぼんでしまったのか

定かではない

茜に塗れた靖国通りには

春が不似合いだから

さくらなど

とうに終わって

とおい宴の匂いも

何処かの次元に飲み込まれたのだ

と、溜息をつく

隣の駅では

路上を騒がせた青年が

自らに刃を突き立て

警官と救護員が入り乱れ

彼の魂を綺麗に投げ捨てて

何処かへ運んで行ったらしい

サイレン、けたたましく

サイレンと

サイレント

黙りなさい

眠りなさい

言うことを訊きなさい

死になさい

いきなさい

(誰が言った?)

サイレンが鳴る

サイレンと

サイレント

わたしはもはや

声を失ったので

代わりに誰か

語ってくれたら嬉しいよ

靖国通りの整頓された舗道と

タイトスカートが同化して

わたしはそのうちいなくなり

呼吸だけが残り続ける

百年、

千年。

初出:詩人会議 2010年5月号。

葛原りょうさんの詩集「魂の場所」の掲載作品である、「落日素描」に触発され、舞台を飯田橋から市ヶ谷(九段4丁目)に移して書いたもの。

「詩人会議」という詩誌を知り、読者投稿作品として初投稿。

ビギナーズ・ラック、と思いつつも活字になるのはとても嬉しい。

3人もの選者が批評をくれるのも、とても有り難く、興味深く、勉強になる。

ほとんど『現代詩フォーラム』中心だった投稿から、ネットではなく詩誌を中心に作品を投稿しようと考え始めた。

ネットは反応は早いが、流れ込む膨大な作品に流され、すぐに埋もれてしまう。

書き残したい、自分の生きた証として。

※「魂の場所」

著者 

葛原 りょう

2007年11月30日 初版発行

㈱コールサック社

定価 2000円

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